FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)は、監査法人に所属する公認会計士の代表的な転職先の1つです。
M&Aやファイナンスのスキルを高めたいと考える公認会計士は多くいます。
このページでは、FASへの転職を検討されている方向けに、仕事内容やキャリア、転職するメリット・デメリットについて解説していきます。
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目次
監査法人の次の転職先としてFASはおすすめできる
監査法人からの次の転職先として、FASはおすすめできる領域の1つだと言えます。
その理由としては、FASでの経験がキャリアの幅を広げ、選択肢を増やしてくれるからです。
公認会計士が希望する人気の転職先として、事業会社の経営企画やベンチャー企業のCFO、投資ファンドなどがありますが、こうした領域を含め、ファイナンスに関する何らかの業務経験が求められる転職先というのは多くあります。
そのため、当初はFASを選択肢に入れていなかったケースでも、将来のキャリアを見据えて、FASで経験を積んでおいた方が良いと判断されるケースがあります。
また、将来の展望が未定であったとしても、キャリアの汎用性という観点からFASへの転職を選択されるケースもあります。
目指すべき姿から逆算して転職先を検討していくことも重要ですので、FASを含め、キャリアに関するお悩みがあれば、お気軽にご相談ください。
公認会計士のFASでの仕事内容
FASはファイナンシャル・アドバイザリー・サービスの略称であることからもわかるとおり、ファイナンスに関するコンサルティングサービスを提供しています。代表的な業務としては、M&Aに関するアドバイスやサポートがあります。
公認会計士の主要な業務としては、M&Aに関連する財務デューデリジェンス(DD)、バリュエーション、PPA(パーチェス・プライス・アロケーション)、FA(ファイナンシャルアドバイザー)、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)などが挙げられます。
事業再生やフォレンジック(不正調査)に従事する方もいます。
FASでの公認会計士の主な仕事内容
- 財務デューデリジェンス
- バリュエーション
- FA
- PMI
- 事業再生
- フォレンジック
各ファームによって、業務の分担やサービス提供体制、部門名称などが異なりますが、ここでは説明の都合上、上記のようなチームごとに分かれている前提で記載していきます。
財務デューデリジェンス
監査法人からFASへ転職する場合、M&Aに関連する財務デューデリジェンスに従事する方が多くなっています。公認会計士が最も多く所属する部門です。
財務デューデリジェンスとは、簡単に言えば、M&Aにおいて対象企業の財務状況を調査することです。過去の一定期間の収益やキャッシュフロー、負債の状況を精査し、企業価値分析や投資の意思決定に関する情報を収集します。
この業務は監査業務との親和性が高く、業務のプロセスが似ていることから、監査経験しかない公認会計士でも即戦力として活躍しやすいのが特徴です。
FASでのキャリアを積むケースはもちろんですが、それ以外の領域でも財務デューデリジェンスの需要は高いため、他のコンサルティングファームやファンド、事業会社などでも活躍の場があり、その後のキャリアにもプラスになります。
財務デューデリジェンス自体は公認会計士資格者でなくてもできる業務ですが、実際には公認会計士資格者が求められる場面がかなり多いため、さまざまな意味で有用な経験になります。
バリュエーション
バリュエーションでは、M&A取引における対象企業価値の算定を行うほか、M&A後の取得原価の配分プロセスに関する評価(PPA)、減損テストの評価などを行います。これらは主に会計目的に用いられるものがあります。
バリュエーションも公認会計士が多く活躍している部門ではありますが、財務デューデリジェンスよりもファイナンス色が強くなり、求められるスキルも異なります。
先述した財務デューデリジェンスから業務を始め、その後バリュエーションチームに異動して経験を積むケースもあります。
ただし、部門間の異動や複数の領域に関与できるかどうかはファームによって異なる場合がありますので、FASへの転職を考える際には、これらの点も含めてご相談いただければ幸いです。
FA
M&Aに関わる一連のプロセスの実行や管理(エグゼキューション)において、アドバイザリーやディールの制約に向けた利害関係者との調整業務や交渉などを行います。これは、前述の財務デューデリジェンスやバリュエーションよりも業務範囲が広いのが特徴です。
会計・財務に関する部分だけでなく、ビジネス面や税務、法務など幅広い論点に対処できる知識が必要です。また、クライアントとの接点が多く、コミュニケーション能力の高さも重要です。
業務の遂行にあたっては、クライアントが直面する課題やトラブルへの適切な対処が求められるため、スピード感もさることながら、労働時間的な意味でもハードな傾向があります。
公認会計士が転職を考える場合、財務デューデリジェンスやバリュエーションと比較するとハードルが高いと言えます。
所属するメンバーの中で公認会計士の割合は、おおよそ2割程度と言われています。公認会計士以外のメンバーには、金融機関の投資銀行部門出身者などがいます。
PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)
PMIは、M&A後の統合プロセスを指します。
M&Aでは、もともと異なる組織を1つにまとめるため、会計処理だけでなく、給与体系や評価制度などを含む各種業務プロセスを統合する必要があります。また、行動指針が異なるケースも多いため、経営理念や文化なども含めてさまざまな要素を統合していきます。
こうした統合プロセスにおいて、公認会計士が関与する部分としては、経理業務フローや内部統制の統合などが挙げられます。
会計以外の領域における統合も重要ですので、弁護士や社会保険労務士、エンジニアなど、さまざまな専門家とのコミュニケーションを取りながら進めていく必要があります。
事業再生
事業再生は、業績が何らかの理由で悪化した企業(事業)を健全化していくコンサルティング業務です。
資金繰りなどの財務面のコンサルティングだけでなく、事業モデルや法務的側面など、総合的な視点で再生計画を策定していくため、幅広い知識が必要です。
ファームによって異なりますが、提案だけでなく、ハンズオンでの支援も行うケースが多いでしょう。
高度な知識や経験が求められる上、コミュニケーションスキルも必要なので、転職難易度は高めです。
フォレンジック
日本では比較的新しい分野のキャリアと言えますが、不正調査や不正の防止を目的として、コンサルティングなどを行います。
FASの中でもBig4FASなどの大手で取り扱っている分野です。
不正は財務会計に限ったものではないため、フォレンジックチームでは公認会計士だけでなく、さまざまな専門家が協力して業務にあたります。ITが関連するケースが大半であるため、エンジニアを含むIT周りの専門家と仕事をすることが多いでしょう。
不正の手掛かりは細かな論点から出てくることが多いため、監査の現場で細かいところが気になり、もっと深堀したいと思っていた方などに向いている可能性があります。
仕事としては、地道に書類に向かう業務ばかりではありません。不正をするのが人間である以上、人を見ることも必要な業務であり、聞き取りも含めてコミュニケーションが発生する場面も多くなります。
近年は企業の不正発覚からの経営危機対応などの需要も多くなっており、事業再生チームとフォレンジックチームが共同で業務にあたるケースもあります。
特殊な業務であり、キャリアとしても独特なものになることが多いです。
公認会計士がFASへ転職する場合の入社難易度
絶対的なものではありませんが、公認会計士がFASへ転職する場合、財務デューデリジェンスに関わる業務が入社しやすいでしょう。
本文中でも触れましたが、公認会計士が多く所属する部門であり、監査経験がそのまま生かせるという点から転職しやすいと考えられます。
バリュエーションも会計の知識が生かされるため、転職はしやすい方だと考えられます。
一方で、FAや事業再生は幅広い知識とコミュニケーションスキルが重要なため、入社が比較的難しい場合があります。
フォレンジックに関しては、入社難易度のみならず、キャリアがやや特殊であることも考慮すべきですので、興味がある方は個別にご相談いただければと思います。
また、後述しますが、チームごとに細分化されていないファームも多数存在します。
本ページではBig4FASなどのように、分業されている前提で述べましたが、中小のFASなどでは1人で広範囲の業務を担当することもあります。
最終的には、望むキャリアに即した形での転職が重要ですので、転職を検討される場合は、充分な情報収集が必要です。Bridge Agentでは、情報提供も無料で行っておりますので、ご希望の方はお気軽にご相談ください。
中小独立系FASとBig4系FASとの違い
FASと一括りにしてきましたが、実際にはさまざまなファームが存在します。
大まかに分類すると、Big4FASとそれ以外に分けられ、それぞれクライアントの傾向や働き方が異なります。
Big4FASを視野に入れている方が多いかもしれませんが、目指すべき方向性や希望によっては他の選択肢を選ぶべき場合もあります。
どちらが良いということではなく、自身のキャリアプランと照らし合わせながら選んでいくのが良いでしょう。
Big4FAS
Big4FAS各社では、仕事内容の項目で述べたようにチームが細かく分かれており、分業体制がとられています。これは、クライアントの規模が大きいため、案件の規模も大きくなる傾向があるためです。チームの分け方は各社でわずかに異なりますが、大まかな方針は同様です。
分業体制の良い面としては、担当領域の専門性を高め、プロフェッショナルとしてのスキルを向上させられるところです。
一方で、全体像を把握しにくいというデメリットもあります。
FASの実務における最初のステップとして、財務デューデリジェンスやバリュエーションを経験し、高い専門知識を身につけることで、M&A全体に関与するポジションに進みやすくなるなどのメリットもあります。ただし、状況や将来のキャリアをどう考えるかで変わってくるところもあります。
なお、クロスボーダー案件が多いため、英語でのメッセージのやりとりや資料のチェックなどは出来る必要があります。特に読み書きの英語力は不可欠です。
独立系の中小FASなどBig4以外
中小独立系のFASは、通常Big4よりもクライアントの規模が小さい傾向があります。そのため、案件の規模も小さく、1人で全体を担当することが一般的です。
クライアントと直接コミュニケーションを取りながら業務全体に関わることができるため、幅広い経験を積むことができ、全体の流れを把握しやすいという利点があります。
ワンストップで全体に携わる業務を経験をしておきたいと考える方もいるため、志向によっては中小規模の独立系FASの方が適している場合もあります。
ただし、独立系のFASもさまざまありますので、一例として参考にしていただければと思います。
FASへの転職で求められるスキル
仕事内容の項目で、監査経験だけでも転職可能であることを述べましたが、その他にも求められるスキルはあります。
英語力
基本的にはある程度の英語力が必要です。
クロスボーダー案件のみならず国内案件も増えており、必ずしも英語力が高い必要はないと言われることもあるようですが、少なくとも読み書きが一定以上のレベルでないと業務上厳しい印象です。
事業再生など、一部領域では英語を使用しないケースもありますが、基本的には一定の英語力が必要です。英語力に不安がある場合は、ご相談ください。
金融機関での経験や事業会社での経営企画経験など
財務デューデリジェンスの場合、公認会計士として監査実務経験があれば問題ありませんが、部門やファームによっては監査経験だけでは足りず、金融業界などでの経験が求められる業務もあります。
また、公認会計士以外の方がFASへ転職するにあたっては、ファンドや投資銀行などの金融領域での業務経験やコンサルティングファーム、事業会社の経営企画、経理での業務経験が必要とされる場合があります。
FASは激務?残業は多いためワークライフバランス重視なら注意が必要
部門やファームによるところはありますが、基本的には残業が多く、忙しいと言えます。業務のスピード感も求められるため、プレッシャーもあります。
監査のような決まった繁忙期というわけではなく、プロジェクトの進行状況によって忙しさが変動します。したがって、労働時間や精神的な安定を重視して働きたい場合は、マッチしないこともあるため注意が必要です。
各ファームや部門の残業傾向などのアドバイスも可能ですので、お気軽にご相談ください。
なお、FASでの経験は将来のキャリアの選択肢を広げてくれるため、苦しい経験をしたとしても、将来的にはワークライフバランスの取れた働き方につながる可能性もあります。
自身の現状と将来のビジョンをよく考え、何を優先すべきか考えていきましょう。
FASへ転職した場合の年収
ファームによって異なりますが、公認会計士が所属する領域では一般的に高い年収が得られる傾向があります。
Big4FASへ転職した場合の参考年収
ボーナスの変動幅が大きく、人により差があるので明確に定義することが難しいのですが、Big4FASであれば高い年収が期待できる領域です。さらに、昇給のスピードや幅が大きいため、年収が上がりやすいというメリットもあります。
各ファームごとの年収目安に関しては自社で把握しているデータなどがございますので、お問い合わせください。
独立系のFASの方がBig4より年収が高いこともある
独立系のFASよりBig4FASの年収が高いと思われがちですが、必ずしもそうとは言えません。中小FASは少数精鋭で高い利益率を出しているファームも多いため、年収という点では中小の方が高い場合もあります。
年収額だけで選ぶのは危険ですが、こだわりたい場合は広く見ていくのも良いでしょう。
監査法人からの転職にあたって年収が下がることもある
監査法人からの転職の場合、FASでは未経験という位置づけになることもあるので、ご年齢や監査法人での職位によっては現行の職位よりも下がっての転職になるケースもあります。
そのため、絶対的に年収が上がる、あるいはスライドというわけではありませんが、基本的には転職時点から高い年収が得られる領域となっています。
FASを経験した後のキャリアについて
FASの経験を生かした次のキャリアの選択肢は多岐にわたります。主な転職先領域は以下の通りです。
公認会計士のFASからの主な転職先
- 大手事業会社の経営企画や経理
- ベンチャー企業のCFO
- 投資銀行
- PEファンドやベンチャーキャピタル
- その他のFASやコンサルティングファーム
個人的な感覚も含みますが、FASから事業会社へ転職される公認会計士が多いように感じます。
ここ数年というスパンで見るならば、事業会社の経営企画や財務・経理でM&A関連の業務への転職が増えています。
傾向として、「一定のワークライフバランスを保ちながらプロフェッショナルとして質の高い業務を行っていきたい」とお考えになる公認会計士は多いように思いますので、事業会社を選択されるケースは増えています。
FASのネクストキャリアについては以下の記事で解説しておりますので、ご参考にしてください。
なお、所属するファームや部門、年齢によっても転職先は変わってきますので、詳細に関してはご相談いただきたいと思います。
FASの採用市場動向
公認会計士の採用市場は、あらゆる業界で超売り手で有利な状況が続いています。
FASにおいても、積極的に採用を行っているファームが増えています。
M&Aブームに伴い、採用需要も増加傾向
ご存じのとおり、ここ数年はM&Aの需要が非常に大きかったことから、その影響でFASでも積極的な採用が行われています。求人数は増加傾向にあり、チャンスが多いと言えます。
また、FAS経験者を求める求人も増加傾向にあるため、FASでの経験を活かした転職先を探す際にも好条件が期待できる状況です。
経験に合わせたポジションも多く、未経験でもFASへ転職できる
Big4などの大手FASでは、業務が目的ごとに細分化されているため、さまざまなバックグラウンドを持つ方にマッチしやすい傾向があります。
公認会計士であれば、監査業務経験が生かしやすい財務デューデリジェンスが挙げられます。
仕事内容の項目では細かく記載しませんでしたが、インフラ・公共事業、金融機関など特殊な領域に関するコンサルティング業務もあり、それぞれに関連したバックグランドをお持ちの方が必要とされるケースもありますので、そうした独特の領域で高いスキル・経験がある場合であれば、M&A実務経験がなくても転職できるケースはあります。
中小と大手とで少し異なる部分もありますが、門戸はそれなりに開かれています。
少なくとも公認会計士資格者であれば、M&Aやコンサルティングファームでの実務経験がなくても転職は可能です。
FASへの転職をお考えであればBridge Agentにご相談ください
FASへの転職に興味がある方は、ぜひBridge Agentにご相談いただければと思います。
Big4FASの求人をはじめとして、FASの求人案件は公開されて募集されているものも多いのですが、各ファームにおける微妙な違いや部門ごとの違い、その先のキャリアも含めた検討が必要になるものと考えますので、FASへの転職を視野に入れている公認会計士の方は一度ご相談いただければと思います。
当社には長年公認会計士の転職支援を行ってきた専門のコンサルタントが在籍しています。
FASへの転職支援実績はもちろんのこと、事業会社や投資ファンド、ベンチャー企業などさまざまな領域での転職実績を持ち、広い視点でのアドバイスが可能です。
今すぐの転職をお考えの方はもちろんですが、先々の転職のための情報収集がしたいという方の相談も受け付けていますので、お気軽にご登録ください。
この記事の監修者
ブリッジコンサルティンググループ株式会社
執行役員/ヒューマンリソースマネジメント事業部 事業部長 仁木 正太
新卒から15年間、九州屈指の地方銀行で法人向けに、融資新規開拓から深耕営業を中心に従事。その後、急成長ベンチャーにて大手、上場企業の事業部長、役員経験者を対象とした“エグゼクティブ人材”と企業オーナーとのマッチング支援サービスに従事し、海外現地法人社長、子会社社長、ベンチャー企業の取締役CxOなどへの移籍を約50名手掛ける。2020年、ブリッジコンサルティンググループで人材紹介サービス「Bridge Agent」を立ち上げる。パーソルキャリア運営ハイクラス転職サービス『iX転職』にて、2021年に最も活躍したヘッドハンターを表彰する『iX HEADHUNTER AWARD 2021』ハイクラス転職人数部門1位(2,500名中)を受賞。