公認会計士の最初の就職先として、ほとんどの方が監査法人(BIG4)を選びますが、ある程度実務経験を積んだ後、激務などさまざまな理由で転職を考える方もいらっしゃいます。
そこで本記事では、公認会計士が監査法人を辞める理由やBIG4から転職するメリット・デメリット、キャリアパスなどを解説します。BIG4から転職するのに適したタイミングや、転職先の候補などもあわせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
個々の経験によっては当てはまらない部分もあるかもしれません。個別具体的なご経験や状況ごとの転職のお悩みに関しては、Bridge Agentまでお気軽にご相談ください。
目次
BIG4が激務になってしまう理由
BIG4、もっと広い文脈で言えば監査法人が激務になる主な理由は、クライアントワークにより繁忙期が存在するためです。日本では3月決算の会社が多く、その監査が一定期間に集中します。監査業務は受注数が収益に直結する労働集約型のため、ビジネスモデル上、繁忙期は免れません。
また、近年の上場会社における不正会計をきっかけに、より厳格な監査が求められる結果、監査手続や文書化が増えることで監査現場における業務量がますます増大していることも激務になる大きな要因となっています。
BIG4を含む監査法人の業務は専門性が高く、即戦力となる人材をスムーズに採用しにくい事情もあります。急に人員が必要になっても補充できないため、現状の人的リソースで対応しなければならず、個々のスタッフやマネージャー等の専門職に大きな負担がかかります。
BIG4は激務?公認会計士が監査法人を辞める理由
公認会計士が監査法人を辞める理由は、主に以下の4点です。
- ワークライフバランスを重視したいため
- 昇進が難しいと判断したため
- 人間関係でストレスを感じているため
- 新しいキャリアを模索するため
それぞれの理由を解説します。
ワークライフバランスを重視したいため
公認会計士がBIG4監査法人を辞める理由の一つは、ワークライフバランスを重視したいと考えるためです。監査業務の繁忙期は、長時間労働が常態化し、私生活とのバランスが取りにくくなります。
30代になると、結婚や出産、子育てなどさまざまなライフイベントを経験して価値観が変わることもあるでしょう。ワークライフバランスを重視したいと考え、転職を決意するケースはよく見られます。
昇進が難しいと判断したため
昇進が難しいのも、公認会計士がBIG4監査法人を辞める理由です。BIG4でのポジションには限りがあり、特にパートナーなどの上位職を目指して熾烈な競争があります。
「昇進の機会が限られている」「自分のキャリア成長が頭打ちになった」と感じた公認会計士が監査法人を去るケースは珍しくありません。
人間関係でストレスを感じているため
人間関係でストレスを感じ、BIG4監査法人を辞める方もいます。職場の人間関係はどの業界でも重要な要素ですが、BIG4をはじめとした監査法人では、クライアントや上司・部下・同僚との関係に苦しむケースが多いです。
クライアントには特に気を遣わなければならず、ストレスの原因になることもあります。「自分が頑張っても感謝されず、モチベーションを失ってしまった」などと聞くことも少なくなく、クライアントワークから離れたいと考える方もいるようです。
新しいキャリアを模索するため
新しいキャリアを模索するのも、公認会計士がBIG4監査法人を辞める理由です。公認会計士としてのスキルは、さまざまな業界で需要があります。監査法人での経験を生かし、異なる業界や専門分野で新しい挑戦をするためにBIG4を離れる会計士も少なくありません。
また、監査という仕事が合わないと感じ、新しいキャリアを模索するケースもあります。「監査に飽きた」「やりがいを感じにくい」などの意見は、転職を考えている方に多い印象です。
公認会計士がBIG4から転職するメリット
公認会計士がBIG4から転職する主なメリットは、以下の3点です。
- BIG4での経験が高く評価される
- 監査業務以外の経験を積める
- 快適な環境で働ける可能性がある
それぞれのメリットを解説します。
BIG4での経験が高く評価される
公認会計士がBIG4から転職するメリットは、経験が高く評価されることです。BIG4での勤務経験は、公認会計士の履歴書において強力なアセットです。
BIG4は国際的に認知されており、高い専門性で知られています。他の監査法人はもちろん、事業会社やコンサルティングファームなど、さまざまなキャリアを検討できるでしょう。
監査業務以外の経験を積める
監査業務に限定されず、より多様な業務に関わるチャンスがあるのも、公認会計士がBIG4から転職するメリットです。具体的には、事業会社でいえば、内部監査や財務経理、予算管理、M&A、経営戦略立案(経営企画)などがあります。
前述のように、BIG4での経験自体がアピールポイントになるため、監査法人以外への転職のハードルも比較的低めです。特にスタートアップやベンチャー企業では、大きな裁量を持ちながら幅広い業務を経験できます。
快適な環境で働ける可能性がある
快適な環境で働ける可能性があるのも、公認会計士がBIG4から転職するメリットです。BIG4では繁忙期に長時間労働が常態化し、ワークライフバランスを確保するのが難しい場合があります。
深夜残業に対する規制等、BIG4を含む各監査法人においても働き方改革を進める動きもありますが、今すぐに自分を取り巻く労働環境を改善したい場合は、やはり転職が近道になります。
ただし、事前に企業文化や労働条件をリサーチし、実際の労働環境が自分の求めるものと合致しているかは確認しておきましょう。
公認会計士がBIG4から転職するデメリット
公認会計士がBIG4から転職するメリットがある一方、以下のようなデメリットもあります。
- BIG4のブランドを捨てることになる
- 会計士としての人脈が狭まる可能性がある
それぞれのデメリットを解説します。
BIG4のブランドを捨てることになる
公認会計士がBIG4から転職するデメリットは、そのブランドを捨てることになる点です。BIG4在籍中は当たり前に収集できていた情報も、転職先ではまったく入ってこなくなり、会計士として成長できる機会が限られる可能性もあります。
BIG4は規模が大きく、多くのリソースやサポート体制が整っています。もし転職先の企業が比較的小規模であれば、転職前には当たり前に頼っていたツールやサポート等が得られず、業務遂行において苦労や負担の増加を感じるケースがあるかもしれません。
会計士としての人脈が狭まる可能性がある
会計士としての人脈が狭まる可能性があるのも、公認会計士がBIG4から転職するデメリットです。BIG4は多様なクライアントや国内外のネットワークを持っており、さまざまな業界のプロフェッショナル人材と接点を持つ機会があります。
国際部門に属している場合は、海外クライアントやBIG4の海外拠点の同僚とのつながりもあるでしょう。しかし転職によって人間関係が希薄になり、BIG4にいた頃と同じようにネットワークを形成するのが難しい可能性もあります。
公認会計士がBIG4から転職するのに適したタイミング
公認会計士がBIG4から転職するのに適したタイミングは、以下の5つです。
- 修了考査合格後
- インチャージ(主査)経験後
- マネジャー昇格後
- IPO監査経験後
- 繁忙期終了後
それぞれのタイミングを解説します。
修了考査合格後
公認会計士がBIG4から転職するのに適したタイミングは、「修了考査合格後」です。修了考査とは、公認会計士試験の最終段階であり、3年間の実務経験及び実務補習制度を経てから受験します。
修了考査合格後は、実務経験を積みつつ公認会計士としての肩書を得た後であり、キャリアの転機となる時期です。BIG4での経験を生かし、「より専門性を追求する」「異なる業界にチャレンジする」「独立する」など、キャリアパスを見直す良い機会です。
インチャージ(主査)経験後
インチャージ(主査)経験後も、公認会計士がBIG4から転職するのに適したタイミングです。マネジメントスキルやクライアントとのコミュニケーション能力など、さまざまなスキルが身につきます。
インチャージ経験後は、一定の実務経験と高レベルの専門的なスキルに加えて、対人折衝を含むプロジェクトマネジメント経験が備わっているため、転職先でも即戦力として期待されます。再び監査法人に戻りたくなった場合も、インチャージを経験していれば引く手あまたの印象です。
マネジャー昇格後
マネジャー昇格後も、公認会計士がBIG4から転職するのに適したタイミングです。マネジャーは、インチャージよりもさらに高いレベルでの責任が求められます。業務の進捗管理や指揮命令など、高度なマネジメントスキルが必要です。
マネジャーに昇格すると、転職先でのポジションの選択肢が広がるため、このタイミングで転職を検討する方もいます。また、マネジャーに昇格する頃には大抵30代になっているため、「40代になると転職が難しくなる」という意味でもベストタイミングと言えます。
IPO監査経験後
IPO監査経験後も、公認会計士がBIG4から転職するのに適したタイミングです。ただしIPOに関するプロジェクトが発生するタイミングに合致しなければ、経験を得ることは難しいため、タイミングによっても左右されます。
IPO監査の一連の業務では、経理部門や管理機能が未成熟な上場準備企業の財務報告や内部統制の強化など、高度な専門知識が必要であるとともに、上場会社の監査ではあまり関わることがないような主幹事証券会社や証券取引所といった関係者とのやり取りも経験できます。
実務を通じて、これらのプロセスをより深く理解することで、公認会計士としての専門性が大幅に向上します。IPO監査の経験は非常に貴重なため、転職での市場価値が高くなりやすく、そのタイミングで転職を検討する方が多いようです。
繁忙期終了後
繁忙期終了後も、公認会計士がBIG4から転職するのに適したタイミングです。監査法人勤務の公認会計士にとっての繁忙期は、通常年度末の決算業務が集中する時期です。日本の上場企業は3月決算が多いことから、基本的には4月から5月にかけてピークを迎え、6月頃には落ち着きます。
繁忙期終了後は、クライアントの期末決算監査が完了しているため、業務の引き継ぎが比較的スムーズに行われます。業務が落ち着き、転職活動に割く時間やエネルギーが増えるという面でも、繁忙期後がおすすめです。
以下記事では、公認会計士が転職先を選ぶときのコツについて解説しています。転職やキャリアプランに悩んでいる公認会計士の方は参考にしていただければ幸いです。
公認会計士がBIG4から転職する際の選択肢
公認会計士がBIG4から転職する際の選択肢は、以下の6つです。
- 中小監査法人
- 事業会社(大手上場企業等)
- 事業会社(IPO準備企業・スタートアップ企業)
- 税理士法人・会計事務所
- コンサルティングファーム
- 金融機関
それぞれの転職先を解説します。
中小監査法人
昨今では、BIG4からの転職先として、中小監査法人の人気が高まっています。中小監査法人のメリットは、法人によってはBIG4に比べてワークライフバランスを確保しやすい点です。また、裁量が広く、柔軟に働きやすいのもメリットと言えます。
「給与が低い」というイメージも根強いですが、実はそうとも限らず、むしろ中小監査法人の方が高年収の場合もあります。中小監査法人について詳しくは、以下の記事も参照してください。
事業会社(大手上場企業等)
ワークライフバランスを重視する公認会計士が、BIG4から転職する際に選びやすいのが事業会社(大手上場企業等)です。プロフェッショナルファームである監査法人に比べて激務度が低い傾向にあり、安定した収入や福利厚生が提供されるため、長期的なキャリア形成に向いています。
会計面だけでなく、企業全体の経営活動に直接関与する機会が増えるのも事業会社に転職するメリットです。担う業務次第では、ビジネスの全体像や各部門の連携、経営戦略など、さまざまな知見が得られます。
事業会社(IPO準備企業・スタートアップ企業)
昨今では、大手上場企業だけでなく、IPO準備企業やスタートアップ企業も人気です。こういった企業に転職する場合は、経理職や管理部門のマネジャー、CFO、常勤監査役などのポジションが想定されます。
IPO準備企業・スタートアップ企業に転職するメリットは、より高度な職位を経験できる可能性がある点です。裁量が広く、やりがいを感じやすいのも大きな特徴です。
IPO準備企業への転職について詳しくは、以下の記事も参照してください。
税理士法人・会計事務所
税理士法人や会計事務所は、個人または法人のクライアントに対して、税務や会計、監査、コンサルティングなどのサービスを提供している組織です。
BIG4から転職するメリットは、クライアントと近い関係で業務を行える点です。中小企業や個人事業主など、クライアントとの距離が近い傾向にあり、税務や財務まわりのニーズに対応するノウハウなどが学べます。将来独立を考えている方には良い選択肢になるでしょう。
コンサルティングファーム
コンサルティングファームは、企業や組織に対して経営戦略や業務改善、リスク管理などの専門的なアドバイスを提供する組織です。近年転職先として人気のあるFAS(Financial Advisory Service)もこちらに含まれます。
BIG4から転職するメリットは、クライアント企業の経営課題の解決担うという仕事にやりがいを感じやすい点です。
FASの場合は、公認会計士の専門知識を生かしやすいのも魅力的です。コンサルティング業界への転職について詳しくは、以下の記事も参照してください。
金融機関
金融機関でも、BIG4から転職する際に選ばれやすいのは投資銀行です。投資銀行は、クライアントに対して資金調達やM&Aの助言などさまざまな業務を行います。
BIG4から転職するメリットは、高年収を実現しやすい点です。投資銀行は、長時間労働の傾向がある一方で、ベース(基本給)、ボーナスとも非常に高いことが一般的であり、他の転職先と比較して高い報酬が期待できます。外資系投資銀行では、クロスボーダーM&Aや海外投資家からの資金調達の支援などを経験できるのも魅力的です。
BIG4から転職する公認会計士が意識すべきポイント
BIG4から転職する公認会計士が意識すべきポイントは、まず「自分が何を求めて転職するのか」「中長期的にどのようなキャリアを築きたいのか」をはっきりさせることです。公認会計士は転職先の選択肢が幅広いため、キャリアの軸を決め、候補を絞るのが重要になります。
目指す業界や職種がどのような人材を求めているのか、市場の動向を把握することも必要です。求人情報のチェックだけでなく、転職エージェントなどを積極的に活用して情報を集めるとよいでしょう。
転職エージェントを選ぶ際、公認会計士や税理士など士業に特化しているところを選ぶのがおすすめです。Bridge Agentには、専門性の高いコンサルタントが多数所属しており、士業・管理部門のハイクラス転職をサポートしています。IPO準備企業・スタートアップ・ベンチャー企業などの非公開求人を多く取り扱っていますので、ぜひお気軽にご相談ください。
BIG4が激務で転職したいと考えている公認会計士へのアドバイス
BIG4をはじめとして、監査法人は激務の傾向にあり、転職したいと考えている方もいらっしゃるかと思います。まず重要なのは、BIG4から転職するメリット・デメリットを整理し、本当に転職するべきかを見極めることです。
転職する際は、修了考査合格後やインチャージ(主査)経験後など、適したタイミングがいくつかあります。キャリアパスに迷った場合は、転職エージェントに相談するのもよいでしょう。
士業・管理部門のハイクラス転職に特化しているBridge Agentは、監査法人からの転職に関して、広い視野でサポートさせていただくこともできます。キャリアにお悩みの方はお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
公認会計士A
保有資格:公認会計士、証券外務員(第一種・第二種)、簿記1級など。
大学在学中に公認会計士試験に合格。その後、監査法人や投資銀行を経て、現在は投資ファンドでPE投資に従事。