FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)は、監査法人の次のキャリアとして一定の人気がありますが、その理由の一つとして、M&A・ファイナンスなど、公認会計士としてのキャリアの幅を広げるにあたって重要な業務経験・知識が得られ、汎用性のあるスキルが身につくことから、将来の目標が定まっていない公認会計士が転職先として選ぶケースがあることがあげられます。
ただ、FASの次の転職先を考える際になっても明確な希望や目標がない状態のままの方も一定数いらっしゃり、キャリアに迷う方も少なくありません。
このページでは、そうした迷っている方も含めてFASの次のキャリアを模索している方向けに、どういった転職先が考えられるのかを見ていきたいと思います。
なお、FASと一口にいってもBig4FASから税理士法人系列のFAS、独立系の大手や中小FASまでさまざま存在しています。
所属するファームや部門によっても違いがあるため一概に言えない部分もあるかもしれませんが、ここでは一般的な公認会計士が多く在籍するBig4FASのDD(デューデリジェンス)、バリュエーション、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)などの部門での経験を想定し、内容を一般化して記載させていただきます。
個々人のご経験によっては当てはまらない部分もあるかもしれませんが、個別具体的なご経験や状況ごとにおけるお悩みに関しては「Bridge Agent」までお気軽にご相談ください。
FASの次の転職先として考えられるフィールド
FASからの主な転職先は、以下の領域が考えられます。
- 大手事業会社
- ベンチャー企業
- 投資銀行
- VCやPE(プライベート・エクイティ)ファンド
- 同業他社(FASからFAS)
各転職先ごとの特徴を見ていきましょう。
大手事業会社
FASから大手事業会社へ転職するケースは比較的多い傾向です。
経営企画(M&A担当など)への転職が一般的ですが、公認会計士に限って見ると経理(M&Aに関係しない)へ転職されるケースもあります。
大手事業会社は、年収や福利厚生、ワークライフバランス、やりがい、ネームバリューなどの働く上で重視するポイントのトータルバランスがよい傾向にあることから腰を据えて長く働くことを考えた際にマッチしやすい職場です。
安定して働ける大手事業会社をキャリアの最終着地点として検討される方も多くいらっしゃいますが、会計監査のスキルだけでなく、ファイナンススキルを上げておくことで事業会社内でポジションが取りやすくなることもあり、監査法人→FAS→事業会社などといった道筋をはじめから考えて動いているケースもあります。
経営企画として事業会社内部でM&Aに携わるケースが多い
ここ数年、経営企画部門などでM&Aに携わるポジションでの求人募集は増加傾向です。
日本企業のM&A件数が飛躍的に伸びていることからも分かるとおり、近年M&Aに関する知見を持っている人材の需要が高くなっており、FAS経験者の採用募集が増加していることが要因の一つとして考えられるでしょう。
中期経営計画の策定とあわせてM&Aの戦略立案から買収後のPMI(Post Merger Integration)まで含めてFASで培った経験が生かしやすい役割での採用募集が多くあります。
特に買収後の統合でうまくいかないケースは過去に多く見られましたので、PMIに関する知見や仕組み作りの経験も需要が高い印象です。
社内にFAS出身者を置くことで業務の一部を内製化でき、外部に依頼する事項を減らしてコストダウンを図るとともに、状況に対して臨機応変に素早く対応していくことができるため、社内にFAS経験者がいるのは心強いといえ、採用需要が高くなっています。
経理という選択肢も
公認会計士に限定すると、FASから経理へ転職される方も多くなっています。
FASは公認会計士が働くフィールドの中では忙しい部類に入りますが、たとえばクロスボーダー案件が多かったり、チームメンバーに投資銀行出身者が多かったりなど、所属するファームやチーム方針によってはかなりの激務になることもあり、精神的・肉体的に疲弊し、ワークライフバランスを求めて経理を選択されるケースがあります。
経理の仕事が楽である、ということではありませんが、業務の特性上クライアントワークはほとんどなく、労働時間にもめどが付きやすいことから心身を壊す心配も少ないため経理への転職希望もそれなりにあります。
経理部門への転職が比較的しやすいのは公認会計士の強みといえるでしょう。
経理の中でも忙しい傾向にある、IPO準備企業の経理に関しては以下の記事で詳しく解説しておりますのであわせてご覧ください。
事業会社(ベンチャー企業)
FASからベンチャー企業へ転職される方も一定数いらっしゃいます。
FASからの転職の場合、CFO(最高財務責任者)や経営企画などの経営に近いポジションで転職されるケースが多くなっています。
近年のベンチャー企業は大型資金調達やM&Aを実施して一気に事業をスケールさせるなど、スピード感を持って事業拡大を目指すところが多くあり、そういったケースではファイナンスに強い人材を求める傾向にあります。
単純にファイナンスに強い人材を求めるのであれば、投資銀行出身者の方がフィットしやすいと考えられるのですが、こうしたベンチャー企業の多くはIPOを一つのゴールとして動いているケースが大半ですので、資金調達などの攻めの体制を作る一方で上場に向けて内部管理体制の構築などの守備強化も進めていく必要があります。
そういった際は監査法人での業務経験を含めて公認会計士の持つ知見が大きく生きますので、バランスのよさから公認会計士をCFOとして採用される場合も多いです。
何を重要視するかは企業によるため、求人選びにおいては各企業の募集ポジションにおいて何が求められているのか、当該企業が抱える課題は何なのか、情報収集をしっかり丁寧に行う必要があります。
ベンチャー企業では大きなリターンが期待できる可能性がある
FASからベンチャー企業へ転職するメリットとしては、会社が大きく成長した場合に高いリターンが望めることがあげられます。
普通にキャリアを構築していては手に入らない年収やポジションが得られる可能性がありますので、将来的な対価という意味では大きな魅力があります。
ただし、ベンチャー企業そのものの経営基盤は大手事業会社と比べれば脆いため、あなたの能力や頑張りとは裏腹に会社が成長せずに破綻してしまうリスクなどはあります。
企業や経営陣の見極めが重要です。
情報収集が難しい
大手事業会社への転職と異なり、ベンチャー企業は転職にあたって必要となる情報の取得が難しい傾向にあります。
ベンチャー企業自体があまり情報を開示していないケースがある他、採用活動に慣れていないことが多いので、公開されている情報がアップデートされていなかったり、そもそもどういった情報を出しておくべきか判断ができていなかったりといったケースも多いです。
当社ではベンチャー企業向けにIPO支援や経営管理に関するコンサルティングサービスの提供を行っていることから、ベンチャー企業への転職に関する情報提供にも強みがあります。
情報が取りにくいベンチャー企業も含めてFASからの転職に関する情報収集を行っている方は、ぜひお気軽にご相談いただければと思います。
また、ベンチャー企業のCFOとして転職した際の役割やメリット・デメリットに関しては以下の記事で詳しく解説しておりますのであわせてご覧ください。
投資銀行
FASから投資銀行へ転職される方はいらっしゃいますが、公認会計士ではあまりいらっしゃらない印象です。
公認会計士の場合、会計を軸にプラスアルファでファイナンスのスキルを身につけたいということでFASへ転職される方もいらっしゃるので、そういった意味では必ずしも完全にファイナンス方向にキャリアのかじを切りたいと思っている方ばかりではないからです。
また、そもそも選考に突破するハードルが高い(学歴・年齢・語学力・スキルなど)ため、投資銀行へ行きたいと思っても公認会計士といえど内定が得られないケースが増加しています。
FASと投資銀行とでの業務内容の違い
FASと投資銀行とでは大まかな業務内容は変わりはありませんが、案件の規模が投資銀行の方が大きい他、投資銀行では買収資金の調達スキームも含めた提案を行う点で違いがあります。
また、投資銀行は買収成立までしか基本的に関与しませんが、FASではM&Aの戦略立案から買収後の統合プロセスのサポートまで含めて関わるため、買収後も含めたM&A全体をサポートする点で違いがあります。
ここではおおまかな説明ですが、投資銀行に興味がある場合は双方の違いを理解し、なぜFASではなく投資銀行じゃないとダメなのか?という点もしっかりと押さえて動機を整理しておいた方がよいでしょう。
年収は高く、その後のキャリアの選択肢も広い
FASから投資銀行へ転職したいと思う理由として、高い年収が得られることがあげられます。
外資・国内どちらにしても公認会計士が転職して得られる年収ゾーンとしてはおそらくトップクラスであると考えられ、大きな魅力です。
また、先程ベンチャー企業への転職の項目でも記載しましたが、事業会社のCFOや外資系PEファンドなど、投資銀行で経験を積むことで生まれるキャリアパスも多くあることから、キャリア的な視点でもメリットがあります。
投資銀行出身ということでブランド力が高くなるというメリットもあるでしょう。
ただし、当然求められるものは大きく、物理的な業務量も多いことに加えてスピード感も求められることから激務であり、精神的・肉体的にタフでないと厳しい環境です。
VCやPEファンド
VCやPEファンドへ転職される方も一定数いらっしゃいます。
投資をする側に行きたい、伴走したいという志向性から転職
FASではあくまで外部の第三者としてクライアントにアドバイスをする立場で業務を行うわけですが、そうではなく、投資する当事者側で業務をしたいと考え、転職を検討される方もいらっしゃいます。
投資をして終わりではなく、ハンズオンで支援するケースが多いため、伴走してしっかり最後まで成長を見届けたいという志向性の方がVCやファンドに魅力を感じるケースもあります。
なお、VCで経営陣と伴走しているうちに自分も事業サイドへ行きたいと感じる方も多いようで、VCからベンチャー企業の経営陣へと移る方もいらっしゃるなど、その後のキャリアパスも多彩です。
PEファンドでは投資先企業に役員として送り込まれることもありますが、事業会社の経営陣としての経験も積めるため、キャリアに厚みがでます。
また、年収が高いのも魅力と言えるでしょう。
VCとPEファンドの違い
未上場企業の株式へ投資をするという点ではVCもPEファンドも共通していますが、実際に投資を行う企業のステージが大きく異なりますので、それに伴って求められるスキルも大きく異なります。
VCは上場前のベンチャー企業に対して投資をして株式を取得し、そのベンチャー企業を成長させ、IPOやM&Aにより利益を得ます。
若くてこれから成長していく過程の企業への投資ですので、プロダクトの将来性や事業モデルの判断をすることが必要ですが、そのためにはある特定の業界(当該ファンドが投資対象にしている業界など)に関して深い知識があり、ビジネスについて判断をしていく素養があることが重要です。そのため、特化して何かに詳しい領域がある方が好まれるケースが多いです。
シード段階での投資が多いことから必ずしも財務や会計の知識が必須ではないケースもありますが、財務会計がバックグラウンドにあることは価値としては大きいため、そこにプラスしてアピールできるものがあれば選考通過も可能であると考えます。
PEファンドは、たとえば歴史のある企業の事業部門の一部を買収し、バリューアップして株式を売却するなど、成長過程ではなく安定期以降に入った企業が対象であることから、財務モデリングやバリュエーションに関する経験が重要であり、FASでの経験によっては採用基準に達するケースはあります。
上記はあくまで一例で、ファンドといってもさまざまあり、具体的に求められるスキルについては求人先や状況により変わってきます。
なお、キャピタリストや投資担当などではなく、バックオフィスとして転職する場合はまた違ったスキルセットが求められます。
採用のハードルは高い
VCにしろPEファンドにしろ転職にあたってのハードルは高い傾向にあります。
PEファンドに関しては外資と国内ではまた組織風土が異なる傾向にあり、外資のPEファンドを目指す場合は投資銀行や戦略コンサル出身者がマッチする場合が多い印象です。
選考内容が独特なケースが多いため、ファンドに合わせた対策が必要な場合が多いです。
また、小規模な組織であることからカルチャーフィットするかどうかも重要であり、しっかり見られる傾向にあることから内部の情報まで含めた情報収集をしておく必要があるといえます。
同業他社(その他のBig4FASや独立系のFASへ)
FASからFASへ転職される方もいらっしゃいます。
転職理由は人それぞれですが、他のBig4FASへ転職するケースでは人間関係や昇進などに関してネガティブな要素から転職をされるケースがあります。
Big4などの大手FASから中小FASへ転職するケースでは残業時間を減らしたいという意向や中小FASでパートナーを目指すケースがあります。
FASから事業会社へ転職される方が多い
FASで経験を積むことでキャリアに広がりが生まれますが、実際に公認会計士の方が転職する先としては事業会社が多い傾向です。
事業会社の中でも近年はベンチャー企業も人気の転職先の一つとなっており、CFOとしてIPOを実現したいといったお考えを持つ公認会計士の方は多くなっていますが、転職にあたっては求人選びがとても重要です。
上場を目指すベンチャー企業が実際にIPOを達成する割合というのはそれほど高くありませんので、転職時点においてIPO確度の高い求人先をある程度見極めることも重要です。
「Bridge Agent」ではベンチャー企業向けにIPOや経営管理に関するコンサルティングを行っていることから、多数のベンチャー企業の求人を保有していることはもちろんのこと、ベンチャー企業への転職にあたっての求人選びのアドバイスや情報提供もしっかりと行うことができます。
また、長年公認会計士の転職サポートを行ってきたコンサルタントが多数在籍しておりますので、事業会社だけでなく、FASからの転職に関して広い視野でサポートさせていただくこともできますので、キャリアにお悩みの方はお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
ブリッジコンサルティンググループ株式会社
執行役員/ヒューマンリソースマネジメント事業部 事業部長 仁木 正太
新卒から15年間、九州屈指の地方銀行で法人向けに、融資新規開拓から深耕営業を中心に従事。その後、急成長ベンチャーにて大手、上場企業の事業部長、役員経験者を対象とした“エグゼクティブ人材”と企業オーナーとのマッチング支援サービスに従事し、海外現地法人社長、子会社社長、ベンチャー企業の取締役CxOなどへの移籍を約50名手掛ける。2020年、ブリッジコンサルティンググループで人材紹介サービス「Bridge Agent」を立ち上げる。パーソルキャリア運営ハイクラス転職サービス『iX転職』にて、2021年に最も活躍したヘッドハンターを表彰する『iX HEADHUNTER AWARD 2021』ハイクラス転職人数部門1位(2,500名中)を受賞。