監査法人やコンサルティングファームで疲弊した公認会計士が、ワークライフバランスを求めて事業会社の経理への転職を希望するケースが多くあります。
ただ、必ずしも経理がワークライフバランスに優れているとは限りません。
また、ワークライフバランスが実現できたとしても、経理部門で働くことが公認会計士としてのキャリアに必ずしもプラスに働くとは限りません。転職を後悔するケースもあります。
そのため、このページでは、経理への転職を希望する公認会計士向けに、働き方やキャリアの面でミスマッチを避けるために知っておきたいポイントについて解説していきます。
目次
経理と言ってもさまざまな転職先がある
経理へ転職すると言っても、さまざまな企業の経理部門があります。経理部門の中でどのような仕事を担当するのかによって、働き方は異なります。まずは、公認会計士が経理へ転職しようと思った際の転職先とそれぞれの特徴について見てみましょう。
上場企業の経理
公認会計士の場合、上場企業の経理部門へ転職する方が増えています。
上場企業は組織が縦割りで、分業体制となっていることが多いのが特徴です。担当業務がしっかりと決められており、自分の役割が明確で業務量が安定している傾向にあります。担当する業務は、3~5年ごとにローテーションするケースが多く、長く勤務することでさまざまな領域の経理業務に携わることができます。
また、人事制度や福利厚生、人員体制が充実している場合が多く、ライフイベントに合わせた働き方が実現しやすい傾向にあります。安心して働くことができるため、ワークライフバランスの実現を求めている公認会計士にマッチしやすい傾向にあります。
仕事内容としては、連結決算や開示など、上場企業ならではの業務に携わるケースが多いでしょう。
なお、一口に上場企業といっても、老舗の大手上場企業と上場したばかりの新興企業とでは大きな違いがあります。同じ上場企業でも、企業によって求められる役割や働き方が異なることに注意が必要です。
IPO準備企業
IPO準備企業への転職を希望する公認会計士もいます。
この場合、単なる経理職としての転職ではなく、CFO候補や上場準備責任者など、上場に伴って発生する業務における中心メンバーの一員であることが多くなっています。
上場を目指すにあたって、経理を中心とした管理部の体制整備は重要な業務となるため、公認会計士の需要はこの領域で高まっています。
比較的忙しい傾向にありますが、貴重な経験を積むことができるのが特徴です。
スタートアップベンチャー企業
創業から間もないスタートアップベンチャー企業に転職する公認会計士もいます。
経理ポジションでの入社するというケースはあまりなく、経理も含めたバックオフィス業務全般や資金調達など、管理部門の中核的な役割を担当することが一般的です。
公認会計士を含む管理部門の担当者が1人もいない企業へ転職し、組織をゼロから作っていく経験がしたいという要望を受けるケースがあり、そういった場合にスタートアップベンチャー企業がマッチする傾向にあります。
会社が大きく成長すれば、初期メンバーとして、大きな収入と高い地位が得られる可能性を秘めているのが魅力です。
ただし、働きやすさに関しては、会社の成長や経営者の方針により大きく左右されるため、経営者次第な側面があります。
上場企業の経理でもワークライフバランスが実現しにくいケースがある
経理はワークライフバランスを求める公認会計士が希望するケースが多いことを記載しましたが、経理への転職が必ずしもワークライフバランスの改善につながるわけではありません。
変革を目指す上場企業の経理は忙しい傾向にある
上場企業の経理ポジションでは、ワークライフバランスが実現できる可能性は比較的高い傾向にあります。
しかし、同じ上場企業でも、グロース市場へ上場したばかりの上場ベンチャーと呼ばれるような企業の場合、組織がまだ安定していない場合があります。多岐にわたる業務に対応しなければならないため、忙しいことが多くなっています。
その他の上場企業でも、市場変更に向けた管理部門体制の強化や経理業務フローの整備を行っている企業は忙しい傾向にあります。
また、近年は、ビジネスが安定している老舗の大手企業であっても、組織改革や業務フローの刷新を行うケースが増えています。管理部門業務におけるAIの活用を含めたデジタル化対応や新規事業展開における経理方針の変更など、変革に向けて動く企業が増えています。こうした企業への転職にあたっては、ワークライフバランス重視の転職では注意が必要です。
時代が大きく変わっていく中で、大手上場企業の経理であっても絶対的に安定しているとは言い切れません。しっかりと個別の企業ごとに情報を取得し、求人を選んでいきましょう。
専門性の高い業務が多い場合、労働時間と精神的な負担が増える
経理部門といってもさまざまな役割があります。
公認会計士が採用される場合、プロフェッショナルとして特別な役割が期待されることがあります。
DXの推進に伴う会計システムの入れ替えや海外子会社の管理、M&Aに関連する経理処理など、高度な知識と能力が求められ、特別な業務に携わる場合は忙しくなります。また、通常業務に加えて追加の業務を担当する場合もあり、結果的に多忙になることもあります。
また、専門性の高い業務が発生する環境下では、他に公認会計士がいない場合、何度の高い業務に関するさまざまな質問が集中する可能性があります。
精神的な負担がかかるという意味で、ワークライフバランスを保つことが難しい場合もあります。
求人企業側がなぜ公認会計士を採用したいと思っているのか、その背景をしっかりと理解するとともに、同部門に公認会計士やそれに準ずるレベルの高い人材がいるのかどうかなどもチェックした上で入社した方が安全でしょう。心のゆとりを持つ意味では重要なポイントです。
他部門とのコミュニケーションが多く、精神的に疲れるケースがある
監査法人で働くうちに、クライアントワークを避けたいと考える公認会計士の方も多いようです。
この場合、経理への転職を目指すのは妥当だと考えられます。実際、経理部門ではクライアントワークを行うことはほとんどありません。
ただ、クライアントワークがなくても、社内調整が頻発し、精神的に疲れてしまうことがあります。
決算や開示のとりまとめにあたっては他部門とのコミュニケーションが必要ですし、取引の実態を把握するために営業部門などとの連携が必要とされることもあります。
各部門間の関係が円滑でない場合もあり、協力的でない可能性もあります。
こうした社内での立ち回りがうまくいかず、ストレスを抱えてしまう方もいらっしゃいます。
クライアントワークを避ける理由が、人とのコミュニケーションが多い仕事に向かないという場合、経理よりも会計業界に居た方が働きやすい場合もあります。
IPO準備が佳境に入っている企業の経理は忙しい
冒頭に記載したとおり、IPO準備企業、スタートアップベンチャー企業はどちらかというと忙しい傾向にあるため、ワークライフバランスは保ちにくい傾向にあります。
特に、IPOフェーズがN-2期以降の経理は非常に忙しくなります。ただし、それ以外の状況のベンチャー企業であれば、そこまで忙しくないこともあります。
経営者の方針によっては個別の事情に合わせた対応をしてくれるなど、働き方に融通が利くケースがあります。求人選びをうまくやれば、リモートや時短勤務など、ベンチャー企業でも働きやすい環境というのはあります。
そのため、ベンチャー企業に興味があるという方も、転職を諦める必要はありませんので、ご相談いただければと思います。
公認会計士でIPO準備企業への転職に興味がある方は、以下の記事も参考にしてみてください。
転職先を幅広く検討することでミスマッチを防ぐ
事業会社の経理部門は、労働時間や福利厚生、人事制度など、多くの面で働きやすい傾向にあります。
しかし、各企業の状況やポジションごとの個別の事情を考慮しないと、ミスマッチにつまがる可能性があります。複数のポジションを比較し、自分に合った経理求人を探しましょう。
また、転職の目的がワークライフバランスであり、経理への転職である必要性がそれほど高くない場合は、他の選択肢を考えてみるのも悪くありません。ワークライフバランスに優れた転職先は経理以外にも存在します。
総合的に転職先を選ぶことをおすすめします。
Bridge Agentには、公認会計士の転職に精通したコンサルタントが所属しております。事業会社の経理も含め、あなたにマッチする求人先の提案をさせていただきます。お気軽にご相談ください。
なお、経理への転職を希望する理由がワークライフバランスである公認会計士の方は、以下の記事も参考にしてみてください。
経理のキャリアや仕事内容からミスマッチが発生するケースがある
経理の仕事内容やキャリア的な側面でミスマッチが生じるケースもあります。
経理の仕事が単調で飽きることがある
ワークライフバランスは実現できても、ルーティンワークばかりで飽きてしまう場合もあります。
監査の仕事に飽き、監査以外の業務に興味を持って事業会社の経理に転職してみたものの、思ったよりも単調ですぐに飽きてしまい、再度転職を検討される方も一定数いらっしゃいます。
スキルアップ志向の公認会計士に合わないことがある
また、特定の領域の経理処理にしか関与できないケースが多いため、成長している実感が得られないという悩みを持つケースもあります。
特定の領域の業務だけであっても、高度な論点の業務が発生する場合であれば、一時的に楽しみややりがいを感じることはあるかもしれません。ただ、そこから広がりが生まれないため、スキルアップを優先する場合、モチベーションが下がっていくことがあります。
そもそも難易度の高い業務がそれほどない、という場合もあります。
スキルアップ志向が強い方の場合、縦割りの組織で働くよりも、ベンチャー企業や少数精鋭のコンサルティングファームで幅広い業務にあたっていた方が適している場合もあります。
大手上場企業でも、自ら挑戦する機会はあるかもしれませんが、基本的には業務が固定化される傾向にあります。
担当のローテーションがあるとしても、数年間は変わりません。人によってはかなり長く感じるでしょう。
ワークライフバランスを重視することは大切ですが、視野を広げて求人を探すことで、こうした別の落とし穴にはまる可能性を減らすことができます。
他の会計・経理人材との差別化ができなくなっていく危機感
経理は汎用性の高いスキルであり、どの企業でも必要とされるため、職がなくなるリスクは小さいと考えられます。
ただ、公認会計士がプロフェッショナルな職業であるため、経理部門での経験の積み方によっては、希少価値が薄まってしまう可能性はあります。
経理部門の多くの業務は公認会計士でなくても行えます。担当する業務によっては、自身の市場価値が向上しない可能性があります。
将来の市場価値を考える際、不安を感じて転職を検討する方もいらっしゃいます。
上位の役職に上がれないことが増えた
上位のポジションがつまっているという現象は、監査法人だけで起きている問題ではありません。事業会社の経理も同じような悩みはよく聞きます。
上位のポジションへ上がっていくためには、単に経理としての実務スキルが高ければ良いというものでもありません。社内での立ち回りやコミュニケーション能力などがが重要な要素です。
特に、社内調整力が得意な方が昇進する傾向にあるのは経理でも同じで、高い実務能力があってもポジションがうまく取れずに悩む方はいらっしゃいます。
出世を望む場合、財務会計のスキルだけではなく、他の側面も重要であることを認識しておきましょう。
キャリアとワークライフバランスの両方を満たす経理求人も当然ある
ワークライフバランスとキャリア、どちらか一方しか実現できないわけではありません。実際、経理として確かな経験を積みながら私生活を充実させている方も少なくありません。
ただ、働き方やキャリアの面で融通が利く企業ばかりではありません。
特に、上場企業の場合は一度入社すると異動も含めて中から状況を変えることが困難な場合が多いため、入社前にその企業のキャリアや働き方について、理解しておく必要があります。
転職で後悔をしないために、情報収集は十分に行いましょう。
経理への転職に興味がある方は、Bridge Agentにご相談いただければと思います。公認会計士のキャリア支援に強いコンサルタントが、あなたの希望に合った求人を提案いたします。
公認会計士が経理へ転職すると年収はどうなる?
監査法人からの転職であると仮定しますが、年収については一概に上がるとも下がるとも断定できません。転職時点だけを見れば、残業時間の差から額面上の年収は監査法人の時より下がることが多い印象です。ただ、時給換算すると経理の方が高いこともあるため、一概にどちらの待遇が良いとは言い切れないでしょう。
転職後、30代・40代と順調に仕事を続けていくことができた場合は、事業会社の方が年収を含めた待遇全般で満足度は高くなる印象です。
事業会社内で長期的なキャリア形成をすることできれば、働き方、年収ともに良いものが得られる可能性は高いと言えます。
賃上げの波が来ている?過去の年収データをうのみにしない方がいい
近年は賃上げの波もあり、事業会社側が大幅な給与改定を行っているケースも増えています。これに伴って入社時の年収も高くなってきているように感じます。
給与体系の変化は企業によって大きく異なり、差が出てきている印象がありますので、過去の統計では年収が低かった企業でも、今後大きく変わる可能性があります。
そのため、過去の年収データや口コミなどもあまりあてにならなくなってくることが予想されます。最新の情報に触れながら転職活動を行っていきましょう。
公認会計士のような、高い専門性を持つ人材が事業会社で求められる場面は増えています。しっかりとスキルアップができる方であれば、待遇面も期待できると予想されます。
経理の採用マーケットは売り手市場が続いている
経理の採用マーケットは売り手市場が続いています。
欠員による増員募集だけではなく、M&AやIPO、海外展開など、組織の変化に伴う採用強化という側面が強いため、公認会計士のようなプロフェッショナルが求められる求人が年々増加しています。
大手上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで幅広い企業でこうした動きは見てとれ、活躍の場は広がっています。
経理へ転職したいと思った際の選択肢は豊富な状況です。
はじめて公認会計士を採用する企業に注意
公認会計士を初めて採用する企業が増えており、公認会計士に対するイメージは経営者ごとで大きく異なります。
たとえば、ベンチャー企業の経営者の中には、「経理のことなら公認会計士資格者なら何でも理解できるでしょう」と考える方もいます。このような認識を持つ経営者がいる企業へ転職するとかなり苦労する可能性があります。
また、公認会計士は税理士登録もできるため、経理業務だけでなく税務実務もなんなくこなせると思っている方も中にはいます。
ミスマッチを防ぐためにも、採用側の意識を確認し、募集背景も含めて何が求められているのかをしっかりと把握しておきましょう。
仕事内容以前に、公認会計士に対する認識を誤っているケースがあります。こうしたミスマッチを防ぐためにも、転職エージェントを活用することも検討してみてください。エージェントは企業のニーズを把握しているため、適切な転職先を提案してくれます。
経理の求人を探す
公認会計士向けの経理求人の多くは非公開で募集されています。
経営戦略上の理由で非公開にするケースも多いのですが、経理部門の特性として、大手企業であっても比較的少数精鋭で運営されており、一人ひとりの役割が大きいということが挙げられます。採用でミスマッチをした際のダメージは非常に大きいため、専門の転職エージェントなどを介して厳選した採用を行う傾向にあります。
求人を探すに際には、非公開求人を多く持つ転職エージェントやヘッドハンティングサービスを利用することで、選択肢が広がります。
また、転職相談を通じて、経理に興味を持ったきっかけがワークライフバランスであった場合、他の選択肢の方がマッチするケースもあります。広い視野で求人先を探すことで、希望が実現できる可能性があります。
Bridge Agentには、公認会計士のキャリアに精通したコンサルタントが多数在籍しています。経理を含め、ご希望に合った転職先の提案が可能です。ぜひご相談ください。
この記事の監修者
ブリッジコンサルティンググループ株式会社
執行役員/ヒューマンリソースマネジメント事業部 事業部長 仁木 正太
新卒から15年間、九州屈指の地方銀行で法人向けに、融資新規開拓から深耕営業を中心に従事。その後、急成長ベンチャーにて大手、上場企業の事業部長、役員経験者を対象とした“エグゼクティブ人材”と企業オーナーとのマッチング支援サービスに従事し、海外現地法人社長、子会社社長、ベンチャー企業の取締役CxOなどへの移籍を約50名手掛ける。2020年、ブリッジコンサルティンググループで人材紹介サービス「Bridge Agent」を立ち上げる。パーソルキャリア運営ハイクラス転職サービス『iX転職』にて、2021年に最も活躍したヘッドハンターを表彰する『iX HEADHUNTER AWARD 2021』ハイクラス転職人数部門1位(2,500名中)を受賞。